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第5話
会社へのクレームだろうか、それとも自分へのアプローチだろうか。
そう考えていると、1人だけが楓の傍まで駆け寄ってきた。
サラサラのストレートヘアを背中まで伸ばした、なかなか可愛い女子社員だ。
「園部さん、今週の金曜日って空いてます?」
「なんで?」
「えっと……社内で合コンしようって話があって……それで、園部さんにも来てもらえたらって……」
なるほど、合コンという名の強制的な見合いの場に連れ出したい訳か。
だが生憎楓はそういうイベントへの興味が全くない。
「その日、俺先約あるんだ、ゴメン」
「え?あ、ああ……ですよねぇ?園部さん、週末とかも忙しそうですもんね」
「忙しいよ。ウィークデーもウィークエンドも」
「はあ……あの、お邪魔してごめんなさい」
半泣きになって戻っていく彼女を見て、楓は不思議に思う。
なぜ自分を選ぶのだろう。
見た目がいいという自覚はあるが、性格の方はお世辞にもいいとは言い切れないだろうという妙な自信がある。
きっと合コンへ行っても、飲んでばかりで場を盛り上げようなどという真似はせず、淡々とマイペースを保つに決まっている。
他人への気遣いなんて疲れるだけで、そんな場所に借り出されるくらいなら、BARで省吾に無視されていた方がマシだとすら思える。
「ん?なんで柏木なんて思い出すんだよ……あんなシカト野郎、こっちから願い下げだっての」
本当に、一体何がいけなくて楓を無視するのだろう。
できることなら楽しい時間を過ごしたいのに、省吾の存在が邪魔で仕方がない。
「こうなったら、マンツーで話してみっか……」
今日も楓は5時で上がれる。
BARの開店時間は6時だが、顔パスで開店前から入らせてもらっている。
相田の話では、省吾は6時前に来店して軽く指ならしをするということなので、待ち構えていれば捕まえるのは簡単だろう。
「めんどくせーけど、これも自分時間の充実のためだからな」
会社のために努力する気はないが、プライベートのための努力は惜しまない。
楓も社会人2年目にして、ようやく先輩達が毎日そこそこ楽しそうに仕事をしている理由が理解できた気がする。
要するに、みんなガス抜きが上手いのだ。
今日のストレスを明日に持ち越さないために常に努力をしているからこそ、元気に出社して来られるのだろう。
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