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第15話

楓は新品のパンツを寝室の箪笥から持ち出すと、濡れたボクサーパンツを脱がせて新しいトランクスを穿かせてやった。 「クソッ……どうしても反応しちまう……」 下半身が暴れ出しそうな欲望を心の中に封じ込めながら、ようやく省吾をスウェットに着替えさせ、ベッドまで運んでやる。 そして布団の中に潜り込ませ、今度は風邪薬の買い置きがあったかどうかを調べるべく、小さな薬箱を漁る。 「あ……これ、俺が熱出した時の坐薬じゃん」 あれ、でも誰が坐薬を入れてやるのだろう? 省吾は完全に無意識なので、やるとすれば楓しかいない。 だがそれは少々おかしくはないだろうか。 楓はそもそも省吾に無視されっぱなしの存在で、親切に坐薬を入れてやるなんて仲ではないはずだ。 それに、艶めかしい肢体を目にしたせいか、なるべく省吾に触れたくない。 ならば錠剤の方にしようかとも思うが、相手が意識を手放している以上、飲ませてやるのはやはり楓の役目となってしまう。 「起きろよ、柏木!」 なんだか面倒になって怒鳴りつけてみるのだが、もちろん省吾が目覚めることはない。 「あ、そうだ……」 さっき着替えさせている間、省吾のジーンズのポケットに何か入っていたような感触があった。 楓は一旦薬のことを置いておいて、彼の少ない荷物を取り出しておくことにした。 玄関先に戻り、ジーパンのポケットから私物を取り出す。 入っていたのは、BARで楓が踏み付けてしまったパスケースと、小銭入れだけだった。 所持金は僅か300円。 「何考えてんだよ、アイツは。小学生か?」 思わずそううそぶいてしまうほど、少額な金しか持っていなかった。 そして今度はパスケースの方を見つめる。 自分と瓜二つの男が、綺麗な笑顔を見せている。 しかもその隣には同じくらい美しい顔で笑う省吾がいる。 「気に入らねーな」 何が、と言われると返答に窮してしまうが、長く見ていたいと思うものではない。 じゃあなぜそう感じてしまうのか。 「嫉妬とか……?いや、待てよ……俺は柏木なんて……」 「好きじゃねーよ」と呟こうとするが、言葉が喉につかえた。 まさか好きで、嫉妬しているのだろうか。 だが思い当たることならある。 例えば今日のことだ。 楓はマティーニを途中まで飲んだところで省吾が裏口から帰って行くのを視界に入れ、反射的に立ち上がってBARを後にし、ずっと省吾の後ろを歩いていたのだった。

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