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第16話

もしも楓が省吾のことを好きだったとしたら、いつからなのだろう──? 出会いは最悪だった。 折角相田が省吾と楓を引き合わせてくれても、「よろしく」と応じた楓に省吾は何も返さなった。 それから毎日ステージでピアノを披露するようになった省吾は、楓など眼中に入れていないように見えた。 だがさっき金曜の夜は閉店まで粘るという楓の行動を指摘していたのだから、全く度外視していた訳ではないのだろう。 甚だ癪ではあるが、峰島という恩師が忘れられなくて、つい同じ容姿をした楓を重ねていた、といったところかもしれない。 「冗談じゃねーよ、俺は峰島じゃねぇ、園部楓だ」 とはいえ、今こんな場面で声高に言ったところで、省吾の耳に届くことはない。 楓はふと思い立って、ベッドサイドに置いたパスケースの写真を見つめた。 どこまでも綺麗な顔をして笑っている2人。 だが恩師の方はもうこの世界にいない。 「なぁ、アンタは柏木をどうたぶらかしてきたんだ?コイツの記憶からアンタが消えることはない」 写真に向かって話しかけても意味などないのにそうしてしまうのは、楓が無理矢理抑え込んだ性欲が解き放たれようとしているからだ。 白くて華奢な身体を目の当たりにした時、同じ男でもこれほどに欲情させられるものかと生唾を飲み込んだ。 そのくらい省吾の身体は楓にとって魅力的だったのだ。 「だからさぁ……消えないなら上書きしてやろうと思うんだ。そこで見てろ」 楓はベッドサイドにパスケースの写真を上向きにして置きながら、省吾にかけた布団を剥いでこちらに背を向けさせた。 まずは下半身のスエウェットを膝の辺りまで下ろす。 次にトランクスを同じくスウェットの真上まで下ろし、白い双丘を視界に入れた。 そして坐薬を取り出し、親指と人差し指で挟んで臀部の割れ目の窄みにあてがう。 少しずつ力を入れれば、坐薬はするりと内側に入っていく。 「ん……」 無意識下でも閉塞感を覚えるのか、省吾の喉からくぐもった声が発せられ、楓は一瞬動きを止める。 だが相手の寝息を確認すると、更に坐薬を押し進め、ついに最奥にまで届かせた。 「柔らかいのは、熱があるからか……?」 男同士でどう繋がるのかについての知識は、あるようでない。 ぼんやりと後ろの孔を使うのだろうなと思う程度で、それ以上のことを考えたことがなかった。 「けど、こっちも無料でサービスしてやってんだ、対価はいただくぜ」

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