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第20話
だから省吾は事後にこっそりトイレへ行き、彼の精液を自分でかき出していた。
楓とは合意なしのセックスだったが、省吾の身体を気遣ってナカ出しをしなかった。
「ふは……」
「ん?何だよ、何かおかしいか?」
「いや……何でもない……アンタ、一応年上だったよな?」
楓は「俺は24歳ですけど?」と不貞腐れたように言った。
「じゃあ、タメ口はやめます」
「何でだよ、今更だろ?つーか、敬語は胸糞悪ぃからやめろ」
「……じゃあ、何て呼べばいい?」
「だから楓でいいっつったろ」
そう言われても、年上相手に呼び捨てにするのは、何となく気まずい。
省吾は力なくそう主張すると、坐薬を入れてくれたこと、ベッドを貸してくれていること、スウェットを貸してくれていることについて、礼を口にした。
「ありがとう……楓……さん……」
「お前が素直に名前呼ぶとか、マジ信じらんねー。けど、俺も省吾って呼ぶからな。もういいから寝とけ」
「……ああ」
翌朝、省吾は午前6時に目覚めた。
下半身が痛いのは、昨夜セックスをしたせい。
それと、まだ多分熱が下がっていないせいだ。
だがあまりここに長居する訳にもいかないだろう。
楓はベッドの近くのソファで寝息を立てているが、決して寝心地はよくないはずだ。
省吾はベッドからそろりと下りると、室内に干されていた自分の服をハンガーから外し、スウェットを脱いで着替え始める。
「何してんの、お前?」
「!?」
慌てて後ろを振り返れば、楓がじっとこちらを見ている。
眠そうな気配を感じないということは、まさか寝たフリをしていたのだろうか。
「帰る」
「どこへ?」
「俺の家へ」
「布団もない家にか?悪ぃけど、昨夜お前が寝ちまってから、相田にお前のこと色々訊いた。つっても家庭の事情くらいしか教えることねーって言われたけど」
楓はそこまで言って起き上がると、省吾の着替えを阻み、真っ直ぐに瞳を覗き込みながら手にしていた体温計を口の中に差し込んできた。
そして待つこと30秒。
ピピッという音が聞こえた後、液晶に表示された数字は、37.5度だった。
「坐薬の効果ってスゲーな」
もし今日も熱が下がらなければ、省吾を病院に連れて行くつもりだったのだと聞かされると、省吾としても押し黙るしかない。
そこまで自分のことを考えてくれているとは思わなかったからだ。
「ま、今日1日大人しく寝てりゃ、平熱になんだろうよ。ってことで、着替えは却下、寝とけ」
シャツが取り上げられたかと思えば、スウェットを頭から着せられ、ベッドに押し戻されてしまう。
「昨日のこと……後悔してねーから」
「え……?」
「峰島の痕跡なんて上書きしてやる。ま、お前が元気になったらな」
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