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第25話
墓地内は、とても静かだった。
数多の魂が眠る場所は、たとえ都心にあっても静けさが保たれているように思う。
省吾は墓地の近くで百合の花束を買い求めると、何度通ったか知れない墓地内を歩き、峰島の墓石と向き合った。
まず花束を無造作に置き、一歩退く。
「先生……もうここへは来ません」
そう呟いて、両手を胸の辺りで合わせてしばし一礼する。
ここへ来ると、笑顔を引っ込める人の存在を知った。
その人の容姿は峰島と瓜二つで、最初は彼を見るのが怖くて仕方がなかった。
なぜなら見れば容赦なく峰島との思い出が胸の中を去来するからだ。
「俺がここへ来ると、哀しそうな顔をする人がいるんです」
その人こそが園部楓だ。
省吾の心の中にある峰島の記憶に楓自身の記憶を上書きし、恋人となってくれた人だ。
まあ、さっきのやり取りでもう恋人ではないと思われてしまったかもしれないが、省吾にとっては、今峰島よりも愛する人であることに変わりはない。
「だから、さよならを言いに来ました。先生、今まで……ありがとうございました」
省吾は直角に身体を折り曲げると、しばしギュッと目を閉じて峰島の顔を思い出そうとした。
しかし、どうやらもうすっかり上書きされてしまったらしく、瞼の裏に浮かぶのは楓の顔ばかりだった。
その頃、楓は会社を早退し、まだ眠っている相田を叩き起こして昼酒をあおっている真っ最中だった。
省吾が今頃墓地で手を合わせているのかと考えるだけでムカついてしまい、仕事どころではなくなってしまったのだ。
「ったく、俺がいるのになんで峰島なんだよ……」
「それって、省吾君の昔の恋人?」
ちなみに相田は省吾のかつての恋人と楓がそっくりなことを知らない。
ただ、好きだった人が亡くなっているという話なら、小耳にはさんだ記憶がある。
「そうだよ。ってか、墓参りって普通10分くらいで終わるモンだよな?」
「ああ、そう言えば。さっき出て行ったなら、夜のステージには間に合いそうなのに、なんで彼、1日休みを申請したんだろうね」
「墓の場所が遠くにあるのかもな」
ああ、酔えない。
どんなに強い酒を飲んでも、酒に身を委ねる気にはなれない。
いつの間に省吾に対してこれほどの独占欲が育っていたのだろうか。
楓はグイと酒をあおると、相田にお代わりを要求した。
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