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第26話
墓参りが終わると、省吾は墓地を出て銀座を目指した。
地下鉄に揺られること10分ほどで、銀座の一等地に出ることができる。
省吾は地下鉄を下りると、しばらく歩いてあちこちの宝石店を覗き、ショーウィンドウに飾ってある宝石類を物色する。
欲しい物は、3件目の店の店頭ウィンドウの中にあった。
しばらく待てば、名前もちゃんと掘ってくれると書いてある。
省吾は迷うことなくその店のドアを開け、足を踏み入れた。
結局、ジンを丸々1瓶開けてしまった楓は、カウンターに突っ伏して眠ってしまった。
あおっている間、相田は彼にどうして省吾の墓参りが気に入らないのかをすっかり暴露してしまっている。
「なるほどね、楓とそっくりな恋人だったのか……」
この世界には自分と同じ顔を持つ人間が、自分以外にあと2人──、つまり同じ顔をした人間が3人いると言われている。
迷信だと思っていたが、省吾のかつての恋人が楓と瓜二つだと言うのであれば、単なる迷信だと片付ける気にもなれない。
「……省吾の……バカヤロウ……」
その時、「おや?」と相田は思った。
眠っていると思われた楓は、よくよく見れば薄く目を開いている。
「別れるのかい?」
「……迷ってる」
どうやら酒をあおるのを止めたお陰で、楓の思考に冷静さが戻り始めているらしく、さっきよりもしっかりと呂律が回っている。
「別れたら、後悔するんじゃないのか?」
「……分かってる。分かってるけど、今の俺は峰島への嫉妬が勝ってて、省吾に優しくしてやれねーんだ」
「そこまで理解できてるなら、少し距離を置けばいい。楓達は急激に接近し過ぎたように思うよ」
そう、本当にいきなり近付いた、という感じだった。
何がどうなれば、頑なだった省吾の心をこじ開けられるのかが疑問だった。
「ところでさ、どうやって省吾君の心を開かせたの?」
「アイツ、少し前に高熱出してぶっ倒れてさ……しょうがねーから俺の家で介抱してやったんだよ。そん時、ヤッた」
「うわ、最低……でもまあ、結果オーライなのかな……」
「だからさ……自信がねーんだよ……俺から『好き』って言うことはあっても、アイツから言われたことねーし……」
それでも、省吾は以前とは別人かと思うくらい、楓に対してオープンになっている。
話しかけられてもシカトせず、ちゃんと会話を成り立たせている。
「楓、惚れた相手を振り向かせるには、相応の時間がかかるものだよ」
「はぁ?」
「ましてや省吾君のかつての恋人は、楓に似てるんだろう?更に言えば死別してる。簡単に他の人を好きになることなんて、できるはずがないだろう」
「……まさか相田に恋愛を諭されるとは思ってなかった」
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