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第30話
そう言えば、気持ちってどうやって伝えるんだろう。
「好き」とか「愛してる」なんて今更言うのは、何だかとても恥ずかしい。
でも、気持ちを繋げるために必要なのは、自分の心を如実に表現する言葉であるに違いない。
省吾の意識がどんどん遠のいていく。
煙が目に沁みて、熱風が肺を焼いて、身体中が熱くてたまらなかった。
「省吾!!!絶対に死ぬな!!!」
消防士が省吾を救出してきたのを目にした楓は、目を疑った。
あれだけの火がアパートを焼いていたというのに、省吾はほぼ無傷の状態で運び出されてきたからだ。
「省吾……?」
だがそこに救急隊員が割って入る。
彼らは一通り省吾の身体をその場でチェックすると、搬送の必要はないと口にした。
「必要ないって、どういうことだよ?」
楓が問えば、隊員は「無傷だということです。念の為病院で診てもらいたいということでしたら、明日にでも外来で受診してください。とはいえ、よくこの火事で無事でしたよね」
と言った。
「ステンレス製の本棚と、ピアノの間に挟まれていたからでしょう」
省吾を救出してきた隊員も、これは奇跡だとばかりに口を出してきた。
「それと、救出の際にこれを持っていたのでお渡ししておきます」
隊員は、楓に向かって小さな紙袋を手渡してきた。
一体何が入っているのかと訝る楓だが、これは省吾が目を覚ましたら渡してやればいいだろう。
とにかく今は省吾を自分の家に連れて行くことが先決だ。
楓は消防士の力を借りて、このアパートの近くのマンションに省吾を運ぶのを手伝ってもらうことにした。
楓はいつか高熱で倒れた時と同じように、省吾の服を脱がせてスウェットを着せてやり、しばらくソファの上で眠ってもらうことにした。
今回は火事で身体が汚れているようなので、ベッドには寝せてやれない。
それにしても、本当によく無傷でいられたものだ。
いくらピアノと本棚に守られていたとはいえ、火傷の一つや二つ負っていてもおかしくはないのに、どこにも見られない。
「お前、とんでもなく運が良かったんだな……」
まさに奇跡と言っても過言ではない。
そしてこの奇跡が峰島の命日に起こったというのも、因縁めいている。
それでも一番嬉しいのは、省吾が無事だということに尽きた。
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