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第32話
捲し立てるように言われると、省吾は困ったとばかりに苦い笑みを浮かべた。
「ピアノは焼けた……金は稼げばいい……それじゃ、だめなのか?」
「けど、これ買う金あったら、布団買えよ!冷蔵庫とか、お前ん家には足りねーモンが多過ぎるっつーの!」
「そんなものなくても生活できる。でも、楓さんの気持ちは金では買えない」
「!?」
その言葉は、楓の心の奥深くまで、ゆっくりと浸透していった。
そう、確かに人の気持ちに値段などつけられない。
ゆえに売買することは不可能だ。
だが、今日の省吾は峰島の墓参りに行っていたはずで、指輪を買いに行った訳ではないだろう。
「墓参りは10分くらいで終わった。先生に、『もうここへは来ない』って告げただけだから」
「え……?」
「だって、楓さんがいるから。先生のこと思い出そうとしても、もう上手く思い出せない……指輪を贈ろうと思ったのも、自分の気持ちを上手く伝える自信がなくて……それを渡して好きだって言えば、ちゃんと伝えらえると思ったから……」
そう言って涙を流し始めた省吾を、楓は正面からしっかりと抱き締めた。
なんて不器用なヤツなんだろう。
口下手で、言葉が足りなくて、それでも楓の心を鷲掴みにしたまま、放そうとはしない。
「ありがとな。俺も、お前のことちゃんと好きだから」
世界にたった一つの、かけがえのない指輪。
照明を帯びて銀色に光るそれが、楓と省吾の心に沁み込んでくる。
これは大切なものなのだと。
不器用な省吾が愛の証としてプレゼントしてくれたものなのだと。
「雄弁な指輪だな」
楓はポツリと呟き、指輪を左手の薬指にはめた。
翌日──。
互いの唾液の味を確かめるように、ねっとりと交わすキス。
『園部さん、とうとう結婚されるんですか!?』
昨日省吾からもらった指輪をつけて出社した楓は、社内の女子社員達から何度もそう訊かれ、その都度「うん、そうだよ」と吹聴してきた。
「結婚しないのに、なんで自慢してくるかな……」
省吾の指が楓の緩くウェーブのかかった髪を梳く。
「なんか不都合でもあるのかよ?」
楓も負けじと省吾のサラサラなストレートヘアを梳いて、後頭部をがっしりと掴んだ。
そして省吾の口をこじ開けて自分の舌を挿し入れ、相手の舌に絡ませる。
室内に響くのは、2人の荒い呼吸音と、唾液の入り混じる卑猥な音だけだ。
楓は省吾のボクサーパンツを脱がせて下着をベッドの下へ落とすと、ペニスをやんわりと手の内に収めた。
「あ、ん……」
「いい声、いただき」
「ふ、ざけんな……ッ……」
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