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第3話
「名前は?」
「カナタ」
「そっちは?」
「……ケイ」
「じゃ、ケイちゃんだな。とりあえずここにいるとヤバいからそこ曲がったとこのホテル入ろう」
「ホテルは嫌だ」
「いつまでもこの付近彷徨いてたら逃げた意味ないだろ。身を隠すだけだよ」
これがカナタとの最初の出会いで最初の会話だった。
俺にはつい最近まで長年付き合っていた同性の恋人がいた。
その彼と一生を共にしようと約束し合ったはずなのに、突然上司の娘と結婚するからとあっさり別れを突き付けられた。それが8月に入って間もなく。
それからその現状を簡単に受け入れられるわけもなく、傷付いた心と未練と色んな感情で支配された俺は、勢いで初めて出会い系サイトを覗いてしまった。
正直誰でもよかった俺は、適当にすぐに会えそうな男を選んで会った。
そして待ち合わせたバーで酒を大量に呑んだ俺を、当たり前のようにホテルに誘い、名前もろくに知らない男に手を引かれホテルへと連れていかれた。
酒も入っていたし、失恋でヤケクソ気味だったから逆らいもせずついて行ったのだが、いざホテルに入ると言う時に急に恐くなってしまった。
すると男の態度が急変して、嫌だと言っても強引に腕を引かれ、無理矢理連れ込まれそうになってる所を助けてくれたのがカナタだった。
*
シティーホテルのような落ち着いたホテル……多分ラブホテルなんだろうけど、あの男に連れ込まれそうになった、派手ないかにもなホテルとは違っていた。
前を歩くカナタがさっき選んだ部屋のカードキーをドアに差し込むと、誰もいない通路にカチャッという無機質な音が響き渡る。
外ではよく見えなかったカナタの表情。だけど室内に入ったことで、今はその明るさからはっきりと見えた。
そして初めてカナタの顔を見た時、俺の心臓は有り得ないくらい波打った。
神様がいるとしたらきっと罰なんじゃないかなって思う。
いや、あの時の俺はちょっとおかしかったから罰と言うより、“運命”だと思ってしまった。
この世の中、3人はそっくりな人がいると言うけれど、早々そんなに似てる人に出会うものでもない。
なのに、目の前にいるカナタの顔は元恋人にそっくりだったのだ。
ひと夏の過ちとか言うように夏の暑さと失恋と酔いとが重なってどうかしてたんだと思う。
「ケイちゃんどうしたの?」
「……いや、なんでも……ない」
「じゃあさ、なんでそんな泣きそうな顔してんだよ」
「泣きそうになんか……」
「してる」
「してない」
それに、俺は思ってた以上に流されやすい性格らしい。
「……あのさ、そんな顔してると抱きしめてキスしたくなるんだけど」
ため息混じりに少しだけ困ったようにするその表情もそっくりで、まだ未練がある俺は気付いたらカナタにその元恋人を重ねていた。
そして、1回だけなら……と、そう思い、“罰”なのか“運命”なのか分からないその両方を受け入れようと、カナタの誘いに頷いた。
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