＊ ｢今日は用事があるからごめんね！今度埋め合わせするから、絶対！｣ その日、ホームルームが終わると瀬戸内が女子の誘いを断っている姿が視界に入った。 両手を合わせながら申し訳なさそうに謝り、笑窪と無邪気な笑顔でその子に笑いかける。 そんな風に全力で謝罪され、笑顔で埋め合わせすると言われたら大体の子は許す。 そんな場面をこの数ヶ月で何回か目の当たりにしてきた。 今日もか…と、教室を出る時に一瞬だけそっちに視線を流すと、数秒だけ瀬戸内と目が合う。 ほんの一瞬の出来事…なのに何故かその日は胸の奥が重たく波打つ感覚を覚えた。 ＊ ｢ケイちゃんさ、今日俺と目が合った時すぐに逸らしたでしょ｣ ｢別に、意識したわけじゃないよ｣ ｢ふーん｣ ｢それより、今日は用事があるんじゃなかったのかよ｣ 今日は金曜日で明日は休み。 瀬戸内はそんな日はたまに俺のマンションに押しかけてくる。 家に来ることは頑なに断っていたはずなのに、押しに負けて一度だけ上げてしまったら最後…一度してしまえば感覚は麻痺して二度三度と繰り返し、気付いたらこのありさまだ。 そして今のように、事後にベッドで昼間の学校の話をするのが決まり事のようになっていた。 ｢ケイちゃんてたまに天然だよな｣ ｢は？｣ ｢用事はケイちゃんを抱くこと。これ立派な用事だろ。あの女よりケイちゃん優先だから｣ 仰向けに寝ていた身体を俺に向けると、そういたずらっぽく告げてくる。 ｢それ女子にバレたら大変だぞ。それに俺は天然じゃない。｣ ｢無自覚とか一番タチ悪いだろ｣ ｢そんなことより、お前って特定の彼女とかいないのかよ｣ ｢気になる？｣ ｢いや何となく思っただけ｣ もともとこいつはノーマルなはずだし、たまたま俺を相手してるだけだと思ってる。 表向きは好青年で通っているから言い寄る女子も多いはず。 だから何となく聞いてみただけなのに、予想外な返事が返ってきた。 ｢いないよ…俺、ずっと前から好きな人がいて、ずっと片想いしてるから｣ その言葉を聞いた時、昼間感じたような胸の重たさが再び俺を襲う。 なんだこれ…… いやいや、ただ意外だったからびっくりしただけだ。 そうだと思ってその時はそれ以上は考えなかった。 それから気のない返事を取り繕って、2人はそのまま眠ってしまった。