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第8話
明け方寝心地の悪さを感じ身をよじると、瀬戸内がぴったりと俺を背中から抱きしめていた。
人を抱き枕にするんじゃねーよ……
顔だけ後ろに向けそんなことを思っていると、瀬戸内が何か寝言を言ってるのが聞こえた。
息を殺してそのまま見つめていると、今度はさっきよりもはっきりと俺の耳にも届く……
「……好き……だ……」
そうぽつりと呟く声は、どこか辛く切なく俺の耳にはそんな風に聞こえた。
そんなに好き、なのか……
そして数時間前に聞いた話を思い出す。
“ずっと前から好きな人がいる”
ずっと……て、どのくらい前からなのか。
目は瞑っているものの、こいつがこんなにも辛そうな顔は初めて見たかもしれない。
何不自由なく生きてるように見えても手に入らないモノがあるなんて……
何故かは分からない。
気付いたらその頬に手を伸ばしていた。
そのまま親指の腹でそっと触れると、その頬は小さく上下して、すぐに規則正しい寝息が聞こえてくる。
お前も俺と同じなんだな…手に入らない人を想い続けてる……
それから静かにベッドから抜け出した俺は、サイドテーブルに付いている引き出しの一番奥に手を伸ばし、小さな箱を取り出す。
───その箱を開けると銀色に光る指輪が一つ。
これはあの人が置いていった指輪。
正式な結婚は出来ないけど、証になるものを贈りたいと2人の名前が刻まれた指輪を渡された。
でも今ここには俺のよりワンサイズ大きい指輪だけしかない。
その、内側に刻まれた名前を眺めながらその名前をぽつりと吐き出す……
「───陽加 …」
「…ケイちゃん?」
乾いた空気に響いた俺を呼ぶ声。
背後から聞こえてきたその声に、消せない記憶ごと急いでその箱を引き出しに隠した。
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