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第9話
「羽月先生これも見てもらえますか?」
「いいですよ、そこに置いといてください。」
「助かります、年度切り替え時期は提出する書類が増えて一人ではどうにも」
国語の教師だと書類や他の文書作成の時、他の先生から添削を頼まれることが多い。
別に嫌いじゃないから苦にはならないけど、自分の業務が遅れ気味になってしまうのが困る。
そんな作業に追われながら日々は過ぎ、来月の2月には自由登校に入る。
3年生はあとは卒業を待つだけだから気楽だ。
でも、担任は卒業に向け色々と仕事は増える。
その上、こうして他の先生の書類作成を手伝ったりするので俺は特に忙しい。
「先生は留学用の書類作成もあるから大変でしょう」
「留学?」
「あれ?聞いてないんですか?」
うちの姉妹校が海外にもいくつかあって、大学もそっちに進む生徒が毎年何人かいる。
そういう制度があるのは赴任する時にちゃんと調べたから知っていたけど。
でも今の3年生でそれに該当する生徒はいなかったはず。
「本年度の卒業予定の生徒にはいないですよね?」
「え?1人いるじゃないですか、先生のクラスの爽やかイケメンくん」
「爽やかって、まさか瀬戸内ですか?」
「そうそう。本当はこのまま大学に進むことになってたらしいんですけど、急に変えたんですよ。父親の転勤の都合とかで」
そんなこと聞いてない。
担任の俺が知らなくてなんで他の先生は知ってるんだよ。
「それ誰から聞いたんですか?」
「羽月先生のクラスの授業出た時に女子が騒いでましたよ」
「付属校て、卒業式はそんなに寂しくないってよく言いますけど、瀬戸内くんがいなくなると言うことは卒業式の日は女子が大変なことになりそうですね」
「……そう、ですね」
後半の話はろくに聞いてなかった。
適当に相槌を打って仕事を早く片付けることだけを考えていた。
「じゃあ、お疲れ様でした」
そして早々に学校を後にして、校門を出たところで俺は初めて自分から瀬戸内に連絡をしようとした。
だけど、何故かあいつのスマホは電源が入ってなくてその後何度掛けてもそれは変わらなかった。
そして次の日、瀬戸内は学校を欠席した。
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