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第53話

 番になった後はΩのフェロモンは番にしか効かなくなる。そして番だけしか受け入れられなくなる。万が一、他の誰かに犯されそうになったら拒否反応を起こしてしまう。  拒否反応には、嘔吐や痙攣、発狂しそうなくらいの激痛、最悪の場合は死んでしまうという。  一方、αの方にはそこまでの拒否反応は出ない。  多少の不快感はあるものの、番以外を抱けば番解消とみなされる。その後はまた別の番を作る事も出来る。  番が解消されると、Ωの中には発情期がなくなる者もいる。また新しい番を作る者もいるし、番が出来る前の発情期のある生活に戻る者もいる。  発情期がなくなる確率は極めて少ない。そしてそうなったΩは本来の本能を失う為、どんどん衰弱していく。早ければ数ヶ月、長くても数年で息を引き取る。  菫は今、残りわずかな寿命を手切れ金で買ったこの家で身の回りの世話や介助をしてくれているヘルパーと二人きりで暮らしている。  残された生命で使い切るには多過ぎる手切れ金を持て余して打ちひしがれていた頃に、永絆と出会った。そして永絆に衣食住の全てを提供し、大学卒業までの学費も出した。  永絆は衣食住に関しては素直に感謝してくれたが、学費はいらないと言って突っ撥ねた。早く仕事を見つけて世話になった分、お返しをしたいと言う永絆に「学歴はあった方がいい」と説得し、いい企業に務めるためにも大学へ行けと強引に話を進めた。  渋々納得した永絆は、それでも奨学金制度を利用すると言って有言実行し、ちゃんと大学に受かった。  菫は彼のそんな努力家で真面目で、あまり融通のきかない性格が好きだった。

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