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第54話

 日に日に憔悴していく自分が出来なかった事を永絆にはたくさんして欲しいと思っていた。 「永絆、何かあった? 少し表情が暗い」 「……菫さんは鋭いなぁ」 「永絆が嘘をつけない性格だからだよ」 「……そんなことないよ。オレ……嘘ついたよ」  ベッドサイドの椅子に座り、永絆は棒のように細くなった菫の手に触れた。出会った頃はまだこんなに痩せていなかった。少しやつれた感じには見えたけれど、死に至る病に罹っているとは思わなかった。  今はもう自力で立ち上がる事さえ困難で、食事も殆ど喉を通らない。かかりつけ医が来て栄養剤の点滴をしてくれても一時凌ぎにしか過ぎず、治す方法は新しく番を作る事だけだった。  菫はまだ離れ離れになった番の事を心底、愛している。  その番が他の誰かを抱いて番が解消された今でも、ずっと思い続けている。  彼以外の番など考えられない。作る気も無いし、病を治す気もない。 「嘘って、どんな?」 「……オレは愛人に飼われてるから番を作る気はない、って」  菫は目を丸くして驚いた後、ふふ、と可笑しそうに笑った。彼のそんな笑顔を見るのは久々で永絆は何故か哀しくなった。 「随分、下手くそな嘘だね」 「オレもそう思う……」

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