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第65話
藍が運転する車の助手席に乗せられて、墓地を走り去る。
藍が運転出来る事を知らなかった永絆は、ハンドルを握る藍の横顔をぼんやりと眺めていた。
送迎で使っていた高級車とは違う、街でよく見かけるタイプの車種。
こうしていると藍がα一族の生粋のαだという事を忘れてしまいそうだ。
「何処に行くの?」
「オレの部屋」
その答えに返事をしないまま窓の外に視線を移した。
何処でもいい。藍と一緒に居られるなら。藍が二度と自分を一人で置いていかないなら。
車は程なく藍の住むマンションに到着して、永絆は藍に手を引かれて部屋に連れて行かれた。
再会した日に来た以来の藍の部屋に、あの日発情したまま置いていかれた記憶が蘇って胸が詰まるような痛みが走った。
「ここからやり直したい」
「え……?」
靴を脱いで中に入ると手を引かれたまま寝室に連れて行かれ、躊躇いながらも足を踏み入れた。
「ずっと後悔してた。あの日永絆を一人にした事を。せめて中根が来るまで一緒に居れば良かった」
永絆から出るΩのフェロモンに理性を保つ自信がなくて逃げ出した。永絆を傷付けたくない一心でした事だった筈なのに、結果的に永絆の心にトラウマを植え付けた。
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