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第75話
藤の性格の良さはクラスメイトや教師の噂話を耳にしていたから知っていた。けれど簡単に信用出来るほど、その頃の永絆には心に余裕がなかった。
何かと気にかけてくれるのは有り難いが、正直、一人で居たかった。誰ともつるみたくなかった。
それでも藤はいつも声を掛けてきて、無視をする永絆にもニコニコと笑顔だった。それがやけにイラついてある日、自分がΩである事を藤に伝えた。
αが近くにいたら発情期になった時に襲われるから傍に寄るな、と。
Ωを蔑むαと友人になるつもりはない、と。
これで自分がΩである事が他の生徒にもバレてしまうだろうと内心ビクビクしていた。けれど何日経っても永絆がΩである事は誰にもバレなかった。
藤は永絆の秘密を誰にもバラさず、それどころか改めて友人になりたいと言ってきた。
『なんでΩのオレなんかと友達になりたがる?』
その問いに藤は当然と言った風に笑顔で答えた。
『友達になるのにαとかΩとか、関係ある?』と。
藤はΩだと知る前からずっと永絆と友達になりたがっていた。一人で居たからという同情なんかではなく、永絆となら良い友人関係が築ける気がするという直感があったのだと説明した。
頑なに藤を拒んでいた永絆も、あまりの純真さに何だか馬鹿馬鹿しくなって思わず笑ってしまった。
その日から少しずつ話すようになって、藤の性格の良さを実感した。
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