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第76話
αである事を鼻にかけない、ごく普通の高校生だ。流行りには敏感だし、男子同士で馬鹿な会話もするし、優秀な遺伝子を持つはずなのに歌はお世辞にも上手いと言えない。たまに何もない所で躓いて転ぶ様な抜けている所もあって、知れば知る程憎めない存在になっていった。
「それで、運命の人とはどうなったの?」
駅の側の小洒落たカフェに入って飲み物を注文した後、徐に藤が聞いてきた。
高校卒業間近に運命の番に出逢った話を一番最初にしたのは藤だった。
藍と『再会したら名前を教える』と告げて車から去った後、事の重大さに動揺して藤に相談をした。気が動転していた永絆を落ち着かせてくれ、真剣に話を聞いてくれた。
運命の番なんてものを藤も信じてはいなかった。そういうのがあれば素敵だね、と深く考えた事もなかった。
これだけ人間が沢山いる世の中でたった一人の運命の番を見つけるなんて不可能だ。αと番えるだけでもΩにとっては幸運なのに、それが魂をも揺さぶる相手だなんて誰が信じるだろう。
でも出逢ってしまった。理由なんてない。一目見て、この人だと解ったのだ。
「今は、ほとんど一緒に暮らしてるようなもんかな」
藤とは久々に会うけれど、近況は連絡していた。入学した大学で藍に再会した事も、菫が亡くなった事も。
永絆の中で藤はαではなく、一人の信頼出来る親友だった。藤も永絆をΩとしてではなく友人として扱ってくれている。
「じゃあ、番うの?」
運命の相手に出逢った事を藤は喜んでくれた。菫の事情も話して知っているから、運命の番なら引き離されたりはしないねと安心していた。
しかし紫之宮の名前を聞いた時、いつも穏和な藤も流石に困惑していた。
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