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第78話

「……その、永絆の相手もね、家を捨ててでも永絆と一緒に居ることを覚悟してるんでしょ?」 「うん、そう言ってる」 「きっと彼はとても良い人なんだね。永絆の事をとても想ってくれてる。だからホントに家を捨てる気でいる。でも永絆は、それを望んでないよね?」 「……望んでも、無理だから」  藍には紫之宮という一族全ての責任を背負う義務がある。もし義務を放棄してΩと番い、紫之宮を捨てたとなったらどうなるか。  紫之宮一族を悪く思う者も沢山いる。失墜させたくて仕方ない、他のαの一族達が。  皆、自分達の一族を守るためなら何だってやるだろう。それが犯罪行為であっても。 「αってさ、知っての通り一度決めたら力強くで押し切る強引な人間ばかりだからね。彼も色んなリスクを分かってて覚悟してる筈だよ。その彼が永絆と引き離されて直ぐに諦めると思う?」  藤が何を言いたいのか分からず首を傾げた。  引き離されたら藍は軟禁状態になって二度と会えなくなるとは予想しているけれど、その時点で藍とは終わりになると思っていた。 「諦めたりしないと思うよ。何度も逃げ出そうとするって俺は思う。もし俺が彼だったらそうする。運命で惹かれあった相手を簡単に諦めたりできないよ」 「でも……オレは何も出来ない。藍には藍の相応しい場所があるんだ。どんなに望んでも……諦められなくても、ずっと一緒にはいられない……」  だから今だけ、なんて都合が良すぎる。藍の優しさに甘えるだけ甘えて、引き離されたら自分はさっさと身を引くだなんて勝手すぎる。 「残酷だね。永絆は彼の事を考えて今だけの関係にしようとしてるけど、それって彼にとっては酷い裏切りだよ」  何の反論も出来なかった。藤の言葉は正しい。藍の事を考えているつもりで結局は己が傷付きたくなくて簡単に手放そうとしている。  こんな狡い考えを、いつの間にか正当化しようとしていた。

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