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第79話
「二人で行けるとこまで行けばいい。ボロボロになって、後悔して、それでも一緒にいたいと思えるなら彼の覚悟を受け入れるんだ」
藤の真っ直ぐに射抜くような強い視線を向けられて、永絆は自分の弱さと狡さを痛感した。
「でもね、それでも彼が家を捨てない方がいいと思うなら、彼にこう言うといいよ」
「……何て?」
「他に番いたい人が出来た、って」
「そんなの直ぐにバレるよっ。藍はきっと相手を調べるっ」
調べるどころか会わせろと言ってくるかもしれない。そんな相手がいない事を徹底的に調べて永絆の感じる不安を取り除こうと躍起になるだろう。
「その時は俺が相手を演じてあげる。永絆の事はよく知ってるから完璧に演じ切るよ」
「……何で? 何で藤がそんな事……」
下手をしたら紫之宮家を敵に回す事になる。一般家庭出身の藤を潰すなんて容易に出来る。
「俺は永絆に幸せになってほしい。永絆は幸せにならなきゃいけないんだ。菫さんの為にも」
「だからって……」
「俺は番とか正直、よく分からないけど……永絆の事は番にしたいくらい大切な存在なんだよ。大事な親友なんだよ。だからさ、お願いだから幸せになれる選択をして欲しい。その為なら何でも協力するから」
喉の奥がぎゅうと握りしめられた様に苦しかった。
大切な親友がこんなにも自分の行く末を案じていた事を今まで知らずにいた。
ずっと近くで仲良くつるんでいたのに。
ありがとうも、ごめんも言えないまま時間だけが過ぎていく。
グラスの中の氷はとっくに溶けていた。
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