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第81話
「何処に行ってたの?」
朝、永絆が出掛ける前は何の予定もないから家にいると藍は言っていた。
「実家に顔出してきた」
「なんかあったの?」
「……別に、何も。気紛れに呼び出されるんだよ」
「そっか」
藍の顔をそっと覗くと眉間に皺を寄せて何か考え事をしていた。実家で何かあったのは見ただけで分かった。どこまで踏み込んで訊いていいのか分からず、納得したフリをしたけれど。
「永絆は? 友達に会うって言ってたろ?」
「うん、会ってきたよ。元気にしてた」
「どういう友達なんだ? 前に付き合ってたとか、そういうヤツか?」
藍の問いに永絆はクスリと笑んだ。
藤とはそういう関係になった事は一度もないし、意識した事もない。恐らく藤もそうだろう。
そんな藤を相手にヤキモチを妬く藍が愛おしかった。
「ホントに友達だよ。仲は良かったけど、恋愛感情なんてないよ、今も昔も」
藤は永絆の為なら番になる芝居を演じると言った。藍をきちんと諦めさせる為に。
だけど自分は諦める事が出来るだろうか。いつまでも藍を想って生きていくのではないか。きっとそうなる。藍が自分をきっぱり忘れてしまっても。
「……藍」
名前を呼ぶだけで愛しくて、離れ難い気持ちが押し寄せる。
「ん?」
どうして彼と出逢ってしまったのだろう。
どうして番になれない相手が、運命の人なのだろう。
どうして自分はΩで、彼はαなのだろう。
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