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第82話
「オレを抱いて欲しい……」
「え……?」
不安で押し潰されそうになる。
藍は本当に自分を番にするつもりなのか。未だにキスをするくらいで身体に触れてこない藍に、どんな考えがあるのかも知らないでいる。
今はその時じゃないと言われても、発情期になれば必ず最初に思い出すのは藍の事だ。藍に触れられて、その腕の中で淫らに曝け出したい。自分が抱えている欲情の全てを。
今すぐ項を噛めとは言わないから、せめて身体を繋いで確かめたい。藍の心は自分に向いているのだという事を。
激しい発情期の症状は藍以外の人間も誘惑して、自分でもコントロール出来なくなる。前に中根にも縋ってしまった。
今は発情期が薄れてしまい、そこまで酷く誰彼求めたりはしないけれど何時また体質が変化するかは予想がつかない。
今まで守ってきた、まだ綺麗な身体を発情期の衝動のないうちに藍に捧げたいと思うのは女みたいな願望で恥ずかしいけれど、本気でそう思っている。
理性が飛んで藍以外の人間に身体を拓いてしまわぬうちに、藍の熱を感じたい。
「永絆」
永絆の両頬を手で挟んで、藍はそっと短い口付けを口唇に落とす。
「何か不安なのか? もしそうなら正直に話してくれ」
本気で心配するその瞳に永絆は戸惑いを隠せなかった。
藍はこちらが望んでも直ぐに手を出したりしない。どれだけ理性が強いのか、一緒のベッドで寝ていても不必要には触れてこない。
もっと触れてほしいのに。体温を感じたいのに。
「藍が……」
自分を抱こうとしない事が不安なのだと言いたい。
藍ならばいつだって受け入れる心の準備は出来ている。例えヒートで我を忘れた状態だったとしても、藍だったら構わない。
そんな風に思っているのが自分だけだったらと思うと、はしたない欲情を抱いている事に恥ずかしくなるし、切なくて哀しくなる。
「オレを抱かないのは……」
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