97 / 199
第97話
「大した事はないみたいで安心しました。婚約の話も聞かされていないみたいですし、本当に番うつもりなら貴方にちゃんと話すはずですものね?」
自分が何にショックを受けているのか分からないでいた。
番になんてなれない事も、いつか藍が誰かと結婚して紫ノ宮を継ぐ事も分かっていたはずなのに。
ほんの少しだけ、藍が両親に自分の事を話したと知って期待してしまった。それを一瞬で落とされた。その落差に今にも崩れ落ちそうだ。
「貴方も紫ノ宮家に入れるなんて考えてはいないでしょう? 紫ノ宮は代々由緒正しいαの家系。結婚相手も選りすぐりのαの血統なのは知ってますよね? だから、貴方は番にはなれないんです」
可愛らしい声とは裏腹に、茉莉花の言葉には棘があった。
その棘は永絆の心を痛めつけるには十分過ぎる程、尖っていた。
「でも、私は純粋なαの血筋に産まれた正真正銘のαです。紫ノ宮家に嫁ぐのに一番相応しい相手。だから私は紫ノ宮藍様と結婚してαの子供を産むんです。昔から決められていたようなものなんです。わかりますよね?」
今すぐ誰か、ここから連れ出してくれと願った。
もうこれ以上聞いていたくない。逃げ出したい。けれど足が動いてくれない。まるで根が張った様に微動打にしない。
ともだちにシェアしよう!