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第98話
「貴方が運命の相手だと言うのは聞きました。でも、番えなければ運命なんて意味は無いでしょう? 貴方も番えない相手といるより、他に探した方がいいんじゃないですか?」
そんなことは言われなくても分かっている。運命だろうが何だろうが、藍とは番にはなれない事は何度も自分に言い聞かせたから身に染みている。
だけどいざ、他人に言われるとこんなにも痛い。何も言い返せなくなるくらいショックが大きい。
「それでも、藍様がいいと言うのなら、構いませんよ?」
「……え?」
「男性の浮気の一つや二つ、寛容に受け入れて許す心持ちでいろと教えられてきましたから。貴方を囲うくらい何とも思いません」
下唇を、グッと噛み締めた。
酷い侮辱だと思った。悔しくて、女性じゃなければ殴ってしまいたかった。
「けれど、番うのはダメです。子供を作ることも。それでもいいと言うのなら、私は構いません。紫ノ宮家の跡継ぎは私が産むんですから」
口唇から血が滲んで鉄の味が口に広がった。噛みすぎて切れてしまったらしい。
痛みは感じない。口唇の傷より心に受けた傷の方が痛かった。ドロドロと内側から汚れた血が流れ出して来そうな感覚に吐き気がした。
茉莉花には茉莉花の言い分があって、彼女もαの家系としてのプライドや立場があるのだろう。そう簡単に紫ノ宮家の跡取りの嫁という立場を捨てたりはしない。例え相手が運命で惹かれ合う番だったとしても。
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