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第99話

 茉莉花の言葉の節々にそんな強さが垣間見えて永絆は言い返す言葉が何一つ浮かんで来なかった。言い負かされたというよりは、自分の存在意義を全否定されて居た堪れなくなってしまったのだ。  彼女と結婚した後もΩの一人くらい囲う経済的余裕は藍にはある。茉莉花の言う通り、番わずに子供も作らなければ離れなくて済むかもしれない。  けれどそれは、永絆を人間として扱っていない。ペットと同じ扱いだ。 「私の言いたいことはとりあえず伝えました。よく考えて、これからの事を決めてくださいね。Ωにだって、プライドはあるでしょう?」  踵を返して停まっていた車に乗り込んで、茉莉花は車内から永絆に一礼して去って行った。  永絆はしばらくそこから動けなかった。  頭の中がグチャグチャで、今まで夢の中に居るみたいに藍と幸せに過ごしてきた日々が音もなく崩れていくのをぼんやりと見ていた。  大学に行く気になれず、部屋へ戻った永絆はリビングのソファに腰掛けたままグチャグチャの思考回路を修復しようと必死だった。  昼食を一緒に摂る約束をしていた事も忘れて、藍に連絡も入れなかった。そのせいか藍からの着信が何度もあったが出る気にはなれなかった。  このソファの上で身体を繋げて一時の幸せを感じていたのが随分と昔に思える。  けれどその日、藍は実家で茉莉花と会っていた。正式な婚約を交わすために。

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