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第108話

「オレは、今、一緒に居られる僅かな時間に沢山愛されたかった。沢山抱かれたかった。それだけで良かったんだ」  藍の声や温もり、鼓動の速さ、肌が重なりあった時の幸福感。混じりあえた瞬間の愛しさ。息遣い。狂おしい程の花の香り。  その愛しい全てを許されるタイムリミットまで沢山感じていたかった。 「番になれないなら、運命なんて意味が無いんだよ、藍」  肩を掴む手から離れて、永絆は藤の元へ行くと藤の手を取り握りしめた。 「オレの話、聞いて」  二人で居られる時間は終わった。  藍には勝手な話だと思われるだろう。それでもキチンと終わらせなければ、お互いのこれからにいい影響はない。 「藤と番になるんだ」 「……何を……」 「藍とはどう足掻いても番えない。だけど藤は……オレの事を理解して大切にしてくれる。オレを……オレを何度でも抱いて満たしてくれる」  藤が少し困惑した視線を投げかけて来たけれど気付かないフリをした。  実際には藤に抱かれた事など一度もない。身体を捧げたのは後にも先にも藍だけだ。  これは藍が永絆の気持ちの変わりの早さに嫌悪させる為の茶番だけれど、憎まれても恨まれてもこの茶番をやり通すと決めていた。 「藤と番になる」  もう一度言って、藍をじっと見た。視線を逸らせば藍に嘘だとバレる気がした。

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