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第109話

「……オレは……どうなる……」 「藍……。藍はどうもならないよ。今までと変わらず紫ノ宮藍として生きるだけだよ」  出逢う前の当たり前だったその生活に戻るだけで何も変わりはしない。婚約の話だって今ならまだ一時の気の迷いで済まされる。 「オレは永絆と……」 「藍」  言い聞かせるように少し強い口調で藍の言葉を遮ると、永絆は藤の手を強く握った。 「夢の時間は終わったんだ。最初から、オレたちは番えない運命だったんだよ」  番えないのに、どうして藍が運命の相手だったのだろう。  番えない運命に振り回される運命の番だなんて、馬鹿げた話だ。 「永絆っ……それでもオレはっ……」 「藍、オレは囲われる気もないし、番になるならいつか子供だって欲しいんだ。幸せになるって菫さんと約束した。藍とは幸せにはなれない」  菫の名前を出せば、藍が何も言えなくなる事はわかっていた。  番ったαを一生思い続けて儚くなった菫の思いがどれだけ重要か、藍も知っていたから。  それきり藍は何も言わず立ち尽くしていた。まるで感情がなくなったかの様な表情をしたまま。  後ろ髪を引かれる思いで永絆は部屋に残してあった少しの私物を鞄に押し込めて藤と共に部屋を出た。

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