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第111話
「そんなに泣くなら玉砕覚悟で彼と番になれば良かったのに」
どれだけ歩いたのか、見知らぬ道の途中で藤が足を止め永絆を振り返ってそう言った。
その言葉で初めて自分が泣いている事に気が付いて慌てて涙を拭うと、藤がふぅと溜息を吐いた。
「ホントにこれでいいの? 今ならまだ戻れるよ?」
一瞬だけ、藍の元に戻りたいという気持ちが過ぎった。そしてそれをすぐに打ち消した。
「藤、巻き込んでごめん……」
彼の優しさに甘えて関係ないのに巻き込んでしまったことを悔やむ。けれどそれくらい言わなければ自分もまた有耶無耶にして藍の傍に居続けてしまう。
二度と戻れないように自分を追い詰めなければ、弱い心は運命に逆らえずにまた藍に惹かれてその中に閉じこもろうとする。
「俺は構わないよ、永絆の為になるなら。でも、永絆が泣くのは嫌だよ」
「……うん、ごめん……」
「謝らなくていいよ」
「……ごめん」
涙を止めたいのに涙腺が壊れてしまって次々と雫が落ちていく。
見兼ねた藤がまた手を引いて通りかかった公園のベンチに永絆を座らせた。近くにあった自販機でペットボトルの飲み物を買い、蓋を開けてから永絆にそれを渡す。
永絆は暫くそのペットボトルを握りしめたまま、涙を流し続けた。
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