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第113話

「永絆が彼を好きなままでも俺は構わないよ。でもきっと、俺となら永絆は穏やかに生きていける。それだけは約束出来る」  藤の番になれば、どんな未来が待っているかを考えた。  αもΩも分け隔てなく接する藤の隣にいると、自分がΩである事を忘れられた。藤がαである事も忘れていられた。いつも優しい笑顔で話しかけてくれた。藤が居たから高校生活を楽しく過ごせた。  だからきっと、番になったら藤はそれまで以上に優しく接してくれるだろう。  大切にしてくれる。番以外に手を出したりもしない。菫が望んだような幸せを与えてくれる。番にするなら理想的な相手だ。  今は友情でも永く一緒に過ごしていけばいつか愛情に変わるかもしれない。それは燃えるような恋ではないかもしれない。苦しくて切なくて、でも狂おしいくらい愛しい感情ではないかもしれない。  それでも藤となら上手くやっていけそうな、そんな気がする。 「でも、オレ……藍の事を忘れたり出来ないよ……」  いつか恋心は風化していっても、彼との出逢いの衝撃はいつまでも忘れはしない。目が合った瞬間の、強烈な引力は未だに記憶に鮮明に残っている。  いくら藤がそのままで構わないと言っても、藤の気持ちに応えられないまま長く一緒に居続ければ罪悪感でいっぱいになる。仮に藤を好きになったとしても、心の奥にはいつも藍がいる。  それはまるで解ける事のない呪縛みたいに永遠に在り続ける。運命の番とはそういう関係なのだ。

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