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第114話

「藤に甘えたら楽だし、泣かないでもいいかもしれない。でも……考えられないんだ。藍以外と番う事も出来るのに、藍以外と番になる気にならないんだ……」  自分でも馬鹿だと思う。黙って藤に凭れてしまえばいいのに。  けれどどうしても、この項を噛むのは藍じゃないと嫌なんだ。 「そっか、それなら仕方ない。でも忘れないで。俺はいつでも永絆の事を思ってる。幸せになって欲しいし、出来るなら幸せにしてやりたい、俺が。だから……」  一つ息を吐いて、永絆の頭をポンポンとすると藤は無理やり笑って見せた。 「永絆の気持ちが変わったら、いつでもおいで。俺はいつでも待ってるから」 「……ありがとう……」  切なくて涙がまた溢れた。  藤以上にいい人なんてもう二度と出会えないかもしれない。Ωじゃなく、一人の人間として認めてくれた大切な人。  いつか彼の優しさに甘えて手を伸ばす事があったら、その時は藍の事は全て過去にして捨ててしまおう。それが彼に対して出来る精一杯のお返しだ。

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