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第117話
項に伸びた手がそこに番の痕がないのを確認するかのように滑る。
「永絆は、オレの番だ」
グイッと項を掴まれ引き寄せられ、体がよろけて転びそうになる。それを体で支えた藍は永絆の手首を強く握り引っ張る様に強引に歩き出した。
「藍っ、待ってっ……手、痛いっ……」
痛いと何度も訴えたが藍は握った手を少しも緩めず、永絆にも振り向かずに早足で歩く。何度か足がもつれて転びそうになるのを堪えて付いていくと駐車場に着き、助手席に乱暴に押し込められた。
やっと解かれた手首には藍の手の跡が赤く残っていて、まるで手枷のようだと永絆は思った。
運転席に座った藍がエンジンをかける。横顔を見ると険しい顔で前方を見据える藍に、何と話しかければいいか分からず、車が発進した後も口を噤んでいた。
永遠に続きそうな沈黙の中、車窓から外を眺める。藍の部屋に行くのだろうと予想していたが、車はどんどんマンションとは違う道を進んで行った。
「何処にいくの?」
一時間程走って、不安になった永絆が沈黙を破って訊ねた。藍は永絆の問いには答えず、一瞬だけ永絆を横目で見ただけだった。
「……ねぇ、帰りたいんだけど」
来たこともない道を延々と走る事に不安が増した。藍が何を考えているのかも分からず、同じ車内にいるのも苦痛に感じた。
「藍、ねぇ、帰らせて……」
ただ意味もなく走らせている様には見えなかった。しっかりとした目的地があって、そこに向かっている気がした。そこがどんな場所なのかは予想出来なかったけれど、すぐに引き返さなければ後悔すると本能が警告音を鳴らしていた。
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