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第118話
「藍、ねぇ……藍っ」
「もうすぐ着くから黙って」
冷たく言われ永絆は魔法にかかったみたいに声を出せなくなった。これ以上、藍の機嫌を悪くしたら良くないと察して押し黙った。
もうすぐ、と言った割には車はどんどんと進み寝不足だった永絆は車の揺れが心地よくなりいつの間にか眠ってしまっていた。藍を怖いと感じ警戒していたはずなのに、どうしても藍との僅かに過ごした時間が恋心を膨らませて、漂ってくる藍の匂いや息遣いに安心してしまう。
夢の中では二人仲良く並んで過ごせるから、眠る行為は切なくて起きた時に堪らなく哀しくなる。きっとまた目が覚めたら哀しい現実が待っている。だからもう少しだけ、幸せな夢を見させてほしいと願わずにはいられなかった。
バタンと音がして目が覚めた。
運転席にいた藍が車から降りてドアを閉めた音だった。藍は助手席側に回り、ドアを開けるとまだ少し寝惚けたままの永絆の手を取り車から降ろした。
目を擦りながら周りを見渡すと地下駐車場らしく、他にも何台か車が停まっていた。
「藍……ここ何処?」
携帯を取り出し時刻を確認すると夜になっていた。何時間も車の中で同じ姿勢でいたせいで体が痛い。
「これはいらない」
持っていた携帯を藍に取られ、代わりにその手を握られると地下駐車場から上の階に続くエレベーターに乗せられた。何処かのホテルかとも考えたが受付も済ませていないし、エレベーターの内装がホテルのものとは違い張り紙一枚もされていなかったのでその線は消えた。
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