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第120話
「なのに簡単にオレの車に乗る。抵抗しようと思えば逃げられたのに」
確かにきつく手首を握られてはいたが車内では離されていた。信号待ちの瞬間に逃げる事も出来た。それをしなかったのはほんの少しだけ、藍と同じ空間で過ごしたかったから。
「他の奴と番うと言ってるのに目の前で無防備に寝たりする。部屋まで簡単についてくる。オレに心を許したまま、ここにいる」
図星だった。
藍を怖いと思った反面、安らぐ自分がいた。車内の密閉された空間に充満する藍からの花の匂いは堪らなく心地良くて緊張も解れてしまう。
藍を思う気持ちは一欠片も減りはしていない。
「永絆が逃げたり抵抗したら諦めようと考えた。でもここまで付いてきてくれたら、絶対に離さないと決めたんだ。永絆が例え、どんなに嫌がっても」
頬に触れていた手がするりと滑り、永絆の項を撫でた。
「永絆、発情期なんかもう関係ない」
「え……?」
「この部屋でずっと永絆を抱き続けて、何度も項を噛む。誰にも邪魔はさせない。ここはオレだけしかしらない部屋だから」
横抱きにされて慌てているうちにベッドに寝かされる。スプリングがきいて身体が何度か揺れた。そこに藍が、永絆を跨ぐようにして座る。
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