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第122話
藍の言葉に答えはしない。一緒に居られない事は分かっている。イエスと答えれば嘘になるし、ノーと答えれば藍を傷付ける。だから答えることは出来ない。
「永絆、好きだ。誰よりも、何よりも。こんなに永絆でいっぱいで、他に欲しいものは何も無いんだ」
永絆の肌に口唇を這わせながら、藍は切なく甘い言葉を囁く。
目を閉じたまま口唇の感触と藍の声を聴いているうちに自然と力が抜けて、頭がぼうっとしてくる。
心地のいい痺れが身体を走る。藍の触れた先から流れてくる深い愛情に溺れて、深く深く、海よりも深い場所までゆらゆらと落ちていく。沈んでいく。
「藍……藍……大好きだよ……藍……」
無意識に零れた言葉は、けれど何よりも純真な気持ち。
藍の口唇が、手が、骨張った指が、輪郭を描くように永絆の身体を流れていく。
今だけは、何もかも忘れてこの運命の人の愛撫に身を任せよう。そしてこの身体の中に一生忘れられない熱を残してほしい。
「藍……藍……あい……」
肌に散らされていく紅い痕を指で辿る。数日で消えてしまうこの痕の場所、一つ一つを覚えていたい。例え身体から消えても、記憶にだけはしっかりと残しておきたい。
「藍……」
呼ぶ声は掠れて空《くう》に消えた。
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