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第137話

 途中、車の中で眠ってしまい目を覚ますと見慣れた景色が目に飛び込んできた。  帰ってきたのだと実感して、じわりじわりと焦燥感が広がっていく。本当にあの二人きりの閉鎖された時間は終わってしまったのだ。既にあの日々が夢だったかのように思えてきた。  現実はあっさりと永絆を引き戻し、哀しみに浸りきれないまま。宙に浮いたような気持ちを抱えて到着したのは、絶対に来ることはないと思っていた紫ノ宮家本邸だった。  豪邸とはまさにこういう家の事を言うのだろう。何人もの使用人が屋敷内で働き、数えるのも嫌になるほどの部屋の扉に目眩がした。  通された応接間は永絆の住む部屋よりも広く、調度品は煌びやかで座らされたソファはやけに柔らかくて永絆には座り心地が良くなかった。  出された紅茶は緊張で飲めなかった。今から藍の父親がここに来ると聞いて怖くなった。何を言われるのか、何をされるのか。ここに藍が居たら安心するのに彼がどうなったのか誰も教えてはくれなかった。  それは藍とは関わるな、という無言の圧力だった。  紅茶が完全に冷めた頃、ようやく藍の父親が応接間にやって来た。控えていた使用人達の空気が一瞬で張り詰めた。  永絆の対面に優雅に腰を掛けた藍の父親は、肩肘をついて無言で永絆を見据えた。

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