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第138話
長く重い沈黙が続いた。
こちらからは何も言えなかった。αの中のαである彼に何かを言える立場ではなかった。
やがて、藍の父親が立ち上がり部屋から出ていった。訳も分からず困惑していると数分でまた部屋に戻ってきて目の前に座り、永絆の前に封筒を置いた。
「足りなければ言いなさい」
「……え?」
「息子がした事は他言無用。欲しいだけ出す。藍の前から消えろ」
何を言われるかなんて、予想はしていた。けれどいざ直接言われるとショックが大きくて呆然とするしかなかった。
「若気の至りだと思えば大したことではないだろう。必要なら何度でも払ってやる。Ωでは就職さえままならないのだから」
発情期中に外に出ることが危険なΩは重要な仕事を任せては貰えない。優秀なαが重役を占めている会社ならば特に。Ωはひっそりと暮らすしか出来ない。
「調べさせたが……後見人だったΩも相手のαから金を貰っていたのだろう? 君も同じ事をして楽に暮らしたかった。だから藍を誑かした」
何をどう調べたというのか。藍を誑かした事など一度もない。それに菫の事をそんな風に侮辱されて空っぽだった感情がふつふつと沸き上がってきた。
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