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第141話
「君は運命の番だと藍は言っていた。私はそんなものないと思っている。運命ならば、とっくに番が成立しているだろう?」
「……運命はありますよ」
ただ本能だけで生きている訳では無いから。藍の事を心から思っているから。
自分の身体が番になるのを拒否しているのだ。無意識に発情期を止めて番の成立を拒んでいるのだ。
藍のこれから先の未来を大切にするあまり、運命という絆を切ってしまった。
番になりたいと願う心がそれに負けた。自分の弱さが運命を手に入れられなかった。
なんて脆い運命なのか。強く惹かれて求め合った結末が、番の前から消える事だなんて……。
「藍は、今はどうしてるんですか?」
「部屋に軟禁している。頭が冷えるまでは部屋からは出さない」
「……なら、早めに消えますね。出来るだけ遠くへ」
藍は今頃怒っているのか、絶望しているのか。永絆の事を心配して焦っているかもしれない。
同じ屋敷内にいるのに、ここにいると藍に逢おうと探し回っても永久に探し出せない気がする。ここは藍の匂いが分からない。そのくらいこの藍の父親の醸し出す雰囲気とαとしてのプライドが強い。藍の優しい匂いを掻き消す程の存在感と威圧感。
Ωへの嫌悪感から来る蔑んだ匂い。
藍に抱きしめられたい。あの甘い花の匂いに包まれて安心したい。
けれどもう、それは二度と出来ない。
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