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第142話

「……帰っても?」 「どうぞ」  最後にもう一度だけ逢いたかった。ただ一目、顔が見たかった。  応接間を足早に出て、使用人に案内されて外へと出た。外の空気を吸うと重苦しかった身体が軽くなった気がした。この屋敷はΩが来る場所ではないと痛感した。 「帰るの?」  広い庭を出口に向けて歩いていると、一台の車が入って来て永絆の隣で止まった。窓を開けて顔を見せたのは茉莉花だった。 「もう用は済んだので」  だから安心して藍と婚約してくれ、とは言えない。藍の幸せを願ってはいるけれど、今はまだそんな話は聞きたくなかった。 「番になったのかと思ったのに、違ったのね」 「……貴女には好都合でしょ」  早くここから立ち去りたいのに茉莉花は車から降りて永絆の前に立ちはだかった。  これ以上、何を言わせたいのか。何をさせたいのか。或いは何をさせたくないのか。 「私は、αだからその生き方しか出来ないわ。藍様もそうだと思ってた。愛情なんてなくてもαはαと結婚して子供を産むものなんだって、信じて疑わなかった」 「……なら、望み通りですね」

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