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第143話
今は愛情がなくても一緒に暮らしてお互いを知っていけば好きになっていくかもしれない。藍が茉莉花を好きになって、やがて愛情が生まれたとしても責める権利などない。藍が大切に思う人と共に穏やかな毎日を過ごしていける未来を願っている。
それが自分なら良かったのにと思う心に鍵を掛けて、見えないように黒い布で覆ってしまおう。心の奥底深く、簡単に出てきたりしないように何重にも蓋をして。
「貴方は幸せね。たとえ少しの間でも通じ合えた。今だってまだ繋がりあってる。一度結んだ絆は簡単には解けないのよ」
「何が、言いたいんですか?」
今はまだ藍を感じる事が出来ても、そのうち匂いも熱も声も薄れて消えていく。あんなに毎日抱き合った事すら忘れてしまうんだ。
「羨ましいのよ。誰かに愛し愛される事が。短期間であってもね。この先、私が藍様と結婚しても、藍様は貴方への想いをずっと胸に抱き続けて生きていくのよ。私もそんな風に恋愛がしたかったわ。誰かを愛したかった」
「……茉莉花さん?」
「でも私は恋を知らないで結婚するのよ。しかも、他の人を愛してる人と。貴方と私、どっちが幸せかしらね?」
嘲笑を浮かべて茉莉花は車の中へと戻り、車は屋敷へと走っていった。
車の後ろを見送りながら、茉莉花の言葉を頭の中で繰り返す。彼女は藍とどうしても結婚したい訳ではなく、αに産まれた使命を果たそうとしているだけ。由緒あるαの家系同士の形だけの結婚の道具なのだ。
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