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第145話

 彼女はそれを理解した上で、あんなに凛々しく存在している。  それに引き換え自分はどうだ。  藍の為、藍の将来の為、番になって捨てられたくない、そんな言い訳ばかりで逃げてばかり。一ヶ月半も二人きりで生活してきたのに結局、引き離された途端に諦めてしまった。  もう充分だと言い聞かせて遠くへ行こうとしている。  何の成長もしていない。ただ周りを振り回しただけで、逃げ出そうとしている。  いつか見つかってしまうだろうと最初から諦めて鎖に繋がれていた。そんな気持ちでいて、発情期が来る筈もない。中根の見解では永絆の発情期が狂いがちなのは精神的なバランスの悪さからだと言われていた。  まさにその通りだ。諦めている状態でいくら抱かれたって、項を噛まれたって、番が成立する訳がない。藍が鎖で永絆を繋いだ事は全て無意味だったのだ。  藍を信じきれなかった。受け入れきれなかった。捨てられるのが怖くて心の全てを開く事が出来なかった。  魂で繋がった運命の番なのに、藍を諦めてしまった。  そしてもう、藍の側に戻ることは出来ない。  藍の前から消えると決めたから。自分では藍の思いに答えきれないから。 「ああ……でも……」  自分の言い訳を全て認めてしまった今だから、やっと素直に思える。  臆病な自分を受け入れた今の自分なら。 「藍と番いたい……」  魂の、心の底から。  願わずにはいられない。 「さよなら、藍……」  彼と番った未来を想像しながら、永絆は振り向く事無く屋敷を後にした。

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