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玖章 第146話

 しんしんと降る雪がつけたばかりの足跡をすぐに隠していく。  少しでも立ち止まれば進んでいた方向を見失ってしまいそうな程、辺り一面真っ白に染まる雪の中を覚束無い足取りで歩く。  春に再会し、夏に大切な人を見送り、秋に一生分の愛を感じ、そして季節は冬になった。  気が付けば随分と遠い所まで来てしまった。雪が自分の身長よりも降り積もる寒い地域まで。  一度は来てみたいと思っていた有名な観光地の一つ。そこから少し離れた小さな町に移り住み、初めての冬を迎えた。  想像していたよりずっと厳しい寒さと雪の多さに戸惑いながらも、何とかやっている。この寒さもいつか慣れていくだろう。長く住んでいれば。  菫が大学卒業まで契約してくれていたマンションはそのままにして、定期的に清掃サービスを頼んでいる。菫との思い出の詰まった部屋を解約する気にはなれずに結局、契約が終わるまで借りたままにする事にした。荷物も殆どマンションに置いたままだ。

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