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第157話

 藍はいつの間にか仕事を探してきて、働きに出るようになった。バイトすらした事のない藍が工場での力仕事を選んできたことに永絆は驚き、心配した。  世の中はそんなに甘くない。αとして産まれ、何不自由なく生きてきた藍にそんな仕事が続くとは思えなかった。  ところが藍は毎日、清々しい顔をして帰宅した。  誰かの下についてひたすら体を動かし、一からやる事を覚えていく。それが自分の為になり、永絆の為になると思うと頑張れるんだと目を輝かせて言った。 「永絆を養えるくらいは稼がないとな」  汗や埃で汚れた作業着が様になって、いつも上質な服を着ていた事が嘘のように思えた。  無理に働かなくても生きていけるのに藍が選んだ道はαとは思えない楽ではない道。彼はいつでもそうやって自分の目線まで下りてきてくれる。今までもこれからも藍は隣に並ぼうと懸命で、永絆はそんな彼を堪らなく愛しいと思った。  もし今、藍を連れ戻そうとする誰かがやって来ても藍にしがみついて離れないと決めていた。ピッタリとくっ付いて誰にも隙間を与えない。藍の隣は自分のものだと胸を張って主張出来る。

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