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第171話
「それで、なんで来たの?」
さっきまで永絆が横になっていたソファに座った父親の対面にテーブルを挟んで座るとイライラした声で藍が訊ねた。
居心地の悪さから立ったまま部屋の隅にいた永絆をチラリと見た後、藍に視線を戻した父親は足を組んで不敵に笑みを見せた。
「そろそろ戻って来なさい」
「だからっ! 戻るつもりはないって言っただろ!?」
前のめりになって声をあげる藍を宥めようと、永絆も藍の隣に座りその手を握った。
強く握られた拳が少しでもいつもの優しい手に戻るようにそっと撫でる。
「話は最後まで聞きなさい。お前だけを連れ戻すのならばこんな場所まで私が来る必要はない。私は彼に話があって来たんだ」
視線を永絆に向けた藍の父親に、どんな話がされるのか分からず不安になって藍の手を握りしめた。
黙って身を引けと言われる可能性が一番高い。一ヶ月半、藍に閉じ込められた後に話をした時も金銭で解決しようとしていた。また同じように反対されてしまうのだろう。
それでも今回は簡単に身を引くつもりはなかった。
あの時と今は違う。
項には番の印があるし、このお腹の中には藍との子供が育っている。
一人で産む覚悟も勿論しているけれど、それは最大限の抵抗をしてもうどうにもならなくなった時の最後の選択肢だと決めている。
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