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第173話

「つまりあの時、既に番が成立していた。それは運命があるという証拠になりはしないだろうか?」  藍の父親の言葉に、永絆はキョトンとしてしまった。  それではまるで自分と藍の事を認めているみたいに聞こえるではないか。お金をつんでまで離したがった人が何故、こんな事を言うのか。 「矛盾しているとは思うよ、自分でもね。藍が君を追い掛けてここまで来て、部下にそれをずっと見張らせていたのだって藍がすぐに音を上げると思ったからだ。知っての通り、藍はαの中で育ってきた。いつも上に立つ存在だった。何でも手に入る。苦労なんか知らない。そんな息子が君のためだけに生活を変えるなんて絶対に無理だと思っていた」  住む世界が違うと、永絆も思っていた事がある。  たとえ運命の番でも、藍は絶対に手の届かない存在だと。  だからいつもどこか少しだけ距離を置いていた。すぐに離れられるように。  けれど藍は、離れれば離れる程、距離を縮めてくる。実力行使で鎖に繋げてしまう程に永絆を離さない。  今度こそは永久にお別れだと思ってこの寒い土地に一人で来たのに、それすら追い掛けて来た。  これはもう、逃れられないのだと考えを改めるしかなかった。  強烈な執着をされて、けれどそれがとても嬉しいのだからもうどうしようもない。逃げる事を諦めて心のままに藍を受け入れたら、今まで拒んでいたのが馬鹿らしくなるくらい藍で満たされていっぱいになった。

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