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第174話

「藍は、初めて逢った時から、優しかったですよ」  プライドばかりが高く、Ωを卑下するαは沢山いる。昔から力を持っている富裕層のα家系は特にそうだ。  当然、藍もその中の一人。汚い言葉で罵ったり、奴隷の様に扱われてもおかしくなかった。 「発情したオレを助けてくれて、自分の手を傷付けてまでフェロモンに耐えてくれた。お互い惹かれあっていたのに名前も告げずに去ったオレを無理に引き止める事もしないで、いつ逢えるかわからない再会を待っていてくれた……」  番になりたくないと勝手な言い分だけをぶつけて、逃げるように去った事を責めもせずに再会を笑顔で喜んでくれた。 「もう絶対に藍とは離れません」  たとえ番になっていなくとも、この身に生命が宿っていなくとも。  藍のいない人生なんて今はもう考えられない。 「君に覚悟があるのなら、藍と一緒にうちに来なさい」 「……え?」  隣にいる藍を見ると、藍も動揺した表情で永絆を見た。 「子供を産み育てるには二人ともまだまだ未熟過ぎる。きちんとした環境で安心して子育てが出来る環境が必要だ。それにはここは不向きだろう?」 「産まれるまでにはもう少し広い部屋に引っ越すし、俺達より若い親だって沢山いる。助けはいらない」  ここで簡単に紫ノ宮に戻ってしまえば、今まで二人のペースで作り上げてきた家庭を壊されてしまう気がした。  産まれるまでは良くても、産まれたあとに子供と引き離されでもしたらという不信感も拭えない。  やっと二人で新しく歩き始めた生活をめちゃくちゃにして欲しくはない。

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