174 / 199
第179話
どんなに生活が苦しくても、藍と子供さえ居れば幸せだと思う。けれど出来ることなら周りにも祝福されたい。叶わない恋だと諦めていた気持ちを成就させたい。
「藍という名前は、彼女がつけたんだ」
「母さんが?」
「そう……あなた次第、という花言葉だそうだ」
いつでも、どんな時でも、あなた次第で運命は変わるのだと。
名前に付けた温かい願い。
「藍……」
胸が熱くなって、永絆は藍に抱きついた。父親の前だという事も忘れて、その胸に顔を埋めて息を吸った。
花の匂いが微かに香る。
「オレの名前の由来も、なずなって花なんだ」
「ああ……白い小さな花だろ? 知ってるよ」
急に抱きついてきた永絆を宥めるように髪を撫でる。小さな花を愛でる様に。
「再会した時に、名前を聞いてぴったりだと思った。永絆からはいつも花の匂いがしてたから」
今も、いつでも感じる、控えめな花の匂い。その匂いに溺れた時からずっと、虜になったまま。
「あなたに私のすべてを捧げます」
「……うん?」
「なずなの花言葉。だから……だからね、オレはあなた次第、なんだよ」
「……そ、か……うん、そうなんだ……」
あなたに全てを捧げるから、あなた次第でいくらでも咲き誇れる花になる。あなた次第で枯れて、あなた次第で芽吹く。
全て、あなたに捧げたのだから。
ともだちにシェアしよう!