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第179話

 どんなに生活が苦しくても、藍と子供さえ居れば幸せだと思う。けれど出来ることなら周りにも祝福されたい。叶わない恋だと諦めていた気持ちを成就させたい。 「藍という名前は、彼女がつけたんだ」 「母さんが?」 「そう……あなた次第、という花言葉だそうだ」  いつでも、どんな時でも、あなた次第で運命は変わるのだと。  名前に付けた温かい願い。 「藍……」  胸が熱くなって、永絆は藍に抱きついた。父親の前だという事も忘れて、その胸に顔を埋めて息を吸った。  花の匂いが微かに香る。 「オレの名前の由来も、なずなって花なんだ」 「ああ……白い小さな花だろ? 知ってるよ」  急に抱きついてきた永絆を宥めるように髪を撫でる。小さな花を愛でる様に。 「再会した時に、名前を聞いてぴったりだと思った。永絆からはいつも花の匂いがしてたから」  今も、いつでも感じる、控えめな花の匂い。その匂いに溺れた時からずっと、虜になったまま。 「あなたに私のすべてを捧げます」 「……うん?」 「なずなの花言葉。だから……だからね、オレはあなた次第、なんだよ」 「……そ、か……うん、そうなんだ……」  あなたに全てを捧げるから、あなた次第でいくらでも咲き誇れる花になる。あなた次第で枯れて、あなた次第で芽吹く。  全て、あなたに捧げたのだから。

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