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第193話
藍はきっと、この先何度、発情期を迎えようと無理やり行為に及ぶ事はしないだろう。閉じ込められていた間も本気で嫌がって抵抗すれば抱いたりしなかっただろうと思う。鎖だって、扉の鍵だって、逃げようと思えばいつでも逃げるチャンスはあった。
散々抱いて眠ってしまった藍の隙をついて逃げ出すことは、本当は可能だった。それをしなかったのは、逃げたいと思わなかったからだ。閉じ込められて藍の腕の中で縛り付けられている事に幸福感を持っていたからだ。
「迷惑なんかじゃない。番になるって、永絆のΩとしての体質も受け入れるって事だろ。何にも心配しなくていいんだ。俺が全部受け止めるから」
「藍……」
シーツから顔を出すと、シーツの中に篭っていたフェロモンが波のように部屋中に溢れかえった。
クラクラとする感覚に藍は口唇の端を噛んだ。強烈な匂いに負けてしまいそうだ。
「……この花の匂い……久々な気がする……」
何か話していないと意識を持っていかれそうになる。永絆を力任せに抱いてしまいそうで、必死に理性を保つ。
「藍……我慢しないでいいよ。オレもαの藍をきちんと受け入れたいんだ。全部、受け止めたい」
怖い事なんて一つもない。藍さえ迷惑だと思わないなら、それでいい。藍の好きにしてくれて構わない。少しくらい乱暴でも、理性が飛んで明日、身体が動かないくらい激しく求められても。
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