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第201話
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沢山の花に囲まれた不思議な場所に立っていた。
心地の良い風が吹いて少し伸びた前髪を揺らす。その度に満開に咲き誇る花から匂いが溢れ、永絆の元にも優しく匂いを運んできた。
ここは何処だろうと辺りを見渡す。少しだけ傾斜のついた丘のような場所で、周りは花園みたいだ。
その丘の下で、小さな子供が緑に敷かれた芝生にちょこんと座って、もみじみたいに小さな手で花を摘んでいる。そのすぐ傍には子供を見守りながら優しい笑みを浮かべる番の姿があった。
時折、吹く風で二人の会話は聞こえてこない。近くに行こうと足を進め始めた途中で、視線に気が付いて振り返った。
丘の上の方、逆光で顔がよく見えないけれど確かにそれは永絆のよく知る人物だった。
思わず駆け寄ろうとした永絆にその人はニコリと微笑んだ。逆光で見えない筈なのに、確かに微笑んだ様に見えた。
そして丘の下にいる二人を指差して、また笑顔を見せた。
「――っ!!」
名前を呼ぼうとしたのに声が出なかった。喉に何かが詰まったみたいに言葉が風に消えた。
手を振る彼に手を伸ばすけれど、その手は届かない。届かないと知っていて、それでも伸ばさずにいられなかった。
貴方がいてくれたから、辛い時期を乗り越えてまた生き直そうと思えた。
無償の愛情をくれたから、それに応えたいと頑張れた。
Ωである哀しみや辛さ、そして何より誰かを愛して共に生きる事の歓びを知る事が出来た。
全て、あの日貴方があの公園で見つけてくれたから。手を引いて居場所を作ってくれたから。
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