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第203話

 番の前まで行き花束を見せると、そこからは花園のどの花よりも甘く気持ちの安まる匂いが立ち込めた。  この花の匂いには覚えがある。 「初めて藍に逢った日の、あの花の匂いだ……」  忘れられない強い衝撃を受けたあの日のあの匂い。以来、その花の匂いは微かだが絶えず藍から漂ってきていた。一番安心する、藍の匂いだ。 「お前と同じ、花の匂いだな」  そう言って口唇にキスを落として藍が微笑むから、永絆も嬉しくなって笑顔を返した。  この夢が覚めたら、一番最初に藍の名前を呼ぼう。  誰よりも何よりも愛しい、運命の番の名前を。  毎朝、目が覚める度に呼べたならいい。喧嘩した日の朝でも、時間が合わなくてすれ違った次の日の朝でも。  毎朝、一番最初に口にする名前が番の名前であれば。  それが何よりも幸せなんだ――。

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