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第3話

「藍……藍……」  途中からは意識がフワフワとしてうわ言の様に彼の名前を呼び続けた記憶しかない。  以前、藍と初めて出会った時に乗せられた車にいつの間にか乗せられていて、後部座席で藍にしがみついまま離れなかった。  耳元で藍の熱い息を感じてその息を飲み込んでしまいたかった。  彼に深いキスをして貪りつきたい衝動にかられ、それを実行しようとすると藍の手が永絆の口を抑えた。 「永絆、薬は?」  熱い息と共に藍が訊ねる。  そんな事は永絆にはもうどうでも良くて、早くこの渇いた身体を満たして欲しかった。  永絆が答えないまま藍の着ているシャツのボタンを外し始めると、藍は一緒に持って来た永絆の荷物を手繰り寄せ中身をガサガサと乱暴に漁った。  鞄の中から薬の入った瓶を見つけると藍は永絆を押さえ付けて薬の蓋を開け、無理やり永絆の口の中に入れた。  反射的にそれを飲み込んだ永絆は、それでも藍に抱き着いたまま身体を擦り寄せボタンを外したシャツから見える藍の肌に頬を寄せた。  藍はそのまま永絆を強く抱き締めて動けなくさせた。  少し抵抗していた永絆の身体からやがて力が抜けていく。  嘆息して藍の胸に頬を寄せたままの永絆の髪を撫でると、永絆は薬が効きすぎたのか眠ってしまっていた。  車内の窓を少しだけ開けると充満していた花のような強い匂いが薄まっていく。  もう一度、嘆息してからシャツを直すと藍は外に待機していた運転手に車を出すように伝えた。  そして腕の中で眠る永絆の髪に口付けをそっと落とした。

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