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第4話

***  好きな人に触れたいと、そう思う事は極自然な事。  だから触れた。その運命の番に。 「永絆っ! 永絆、おいっ!」  後ろから名前を叫ぶ声がする。それに気が付いてはいるけれど、決して振り向いたりしない。 「ちゃんと薬は飲んでるのか!?」  大学の構内、人通りの多い場所で藍が一定の距離を保ったまま話し掛けてくる。  通り過ぎる生徒達はその様子を物珍しそうに見遣る。 「そんな大きな声出さなくても聞こえてる!」  注目を浴びたくなくて思わず永絆も声を大にして答える。  人のいない備品室の中に急いで入ると施錠をして扉に背を預けた。扉一枚隔てた所に藍が居るのが見なくても解る。  藍からは、番の甘い匂いがするから。 「永絆……?」  さっきまでとは違う、控えめな声が扉の向こうから聴こえてくる。 「……ちゃんと薬は飲んでる。言われた通り、ピルも忘れず飲んでるし首輪も外してない」  一つ息を吐いて答えると藍からも溜め息が聞こえた。 「あんまり近付かないで……。藍が傍に居るだけでヒート起こすんだから」 「永絆……」  再会したあの日、まだ発情期ではないのにヒートを起こして藍に縋りついた。  それはずっと逢いたかった運命の番の姿。  次に逢った時は名前を教えると約束した相手。  強烈に惹かれ合う魂の片割れ。  それなのに――。 「迎えの車を待たせてるから、それに乗って帰れ」  扉の向こうから藍が去っていく。番の匂いが薄れていく。  それだけで胸が苦しくなる。  本当は目を見て、手で触れて、扉なんて隔てないで会話がしたい。  だけど永絆は藍を前にすると発情期など関係なくヒートを起こす体質になってしまった。

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