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第4話
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好きな人に触れたいと、そう思う事は極自然な事。
だから触れた。その運命の番に。
「永絆っ! 永絆、おいっ!」
後ろから名前を叫ぶ声がする。それに気が付いてはいるけれど、決して振り向いたりしない。
「ちゃんと薬は飲んでるのか!?」
大学の構内、人通りの多い場所で藍が一定の距離を保ったまま話し掛けてくる。
通り過ぎる生徒達はその様子を物珍しそうに見遣る。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてる!」
注目を浴びたくなくて思わず永絆も声を大にして答える。
人のいない備品室の中に急いで入ると施錠をして扉に背を預けた。扉一枚隔てた所に藍が居るのが見なくても解る。
藍からは、番の甘い匂いがするから。
「永絆……?」
さっきまでとは違う、控えめな声が扉の向こうから聴こえてくる。
「……ちゃんと薬は飲んでる。言われた通り、ピルも忘れず飲んでるし首輪も外してない」
一つ息を吐いて答えると藍からも溜め息が聞こえた。
「あんまり近付かないで……。藍が傍に居るだけでヒート起こすんだから」
「永絆……」
再会したあの日、まだ発情期ではないのにヒートを起こして藍に縋りついた。
それはずっと逢いたかった運命の番の姿。
次に逢った時は名前を教えると約束した相手。
強烈に惹かれ合う魂の片割れ。
それなのに――。
「迎えの車を待たせてるから、それに乗って帰れ」
扉の向こうから藍が去っていく。番の匂いが薄れていく。
それだけで胸が苦しくなる。
本当は目を見て、手で触れて、扉なんて隔てないで会話がしたい。
だけど永絆は藍を前にすると発情期など関係なくヒートを起こす体質になってしまった。
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